OKI電線の「長尺FPC」は、最長100mの長尺化を実現したフレキシブル基板です。丸線ケーブル比約1/100の軽量化と厚み0.1mm程度の極薄化により、宇宙機器や大型FA機器、大型照明装置の配線効率を向上させます。1枚からの試用・カスタム開発に対応する生産体制など、その技術詳細を客観的に解説します。
電子機器や産業用機械の設計において、配線の「小型軽量化」「省スペース化」および「信頼性の向上」は常に重要な課題です。特に、大型のFA(ファクトリーオートメーション)機器や大型照明装置、あるいは宇宙開発機器などでは、従来の丸線ケーブルによる配線が重量やスペース、組み立て時の誤配線リスクの観点からボトルネックとなることが少なくありません。
本コラムでは、これらの課題を解決する配線材料として注目されている、OKI電線(沖電線株式会社)の「長尺FPC(フレキシブル基板)」について技術的な解説を行います。最長100mに及ぶ長尺化技術の仕組みや基本構造、従来の配線方式との比較、設計時に考慮すべき「吸湿」への注意点、そして宇宙分野をはじめとする実際の採用事例について詳しく紹介します。設計・開発・購買・生産技術の各担当者様の実務に役立つ技術情報を中立的にまとめました。
FPC(フレキシブル基板)の基本的な仕組みと構造
フレキシブル基板(FPC:Flexible Printed Circuits)は、薄い絶縁性のベースフィルムの上に導電性金属による電気回路パターンを形成した配線基板です。一般的なリジッド基板(硬質基板)とは異なり、柔軟性に優れ、自由に折り曲げたり立体的に配置したりできる点が最大の特徴です。さらに、通常の基板と同様に電子部品を直接搭載(実装)することも可能です。
FPCの基本構造は、主に以下の要素で構成されています。
- ベースフィルム(絶縁材料) 電気特性と物理強度を確保する薄いフィルムです。OKI電線のFPCには、電気絶縁性に加え、120℃以上の耐熱性や耐放射線性に優れた「ポリイミド」などが主に使われています。このため、過酷な温度変化や宇宙空間などの厳しい環境下でも安定した性能を維持します。
- 導電性金属(回路層) 一般的には「銅箔」などの導電性金属が用いられ、化学的なエッチング処理などによって高精度な配線パターンがベースフィルム上に形成されます。
- カバーレイおよび補強板 形成された銅箔回路を保護し、絶縁性を高めるためのカバーレイフィルムを被せます。また、コネクタ接続部や部品実装箇所などの局所的な強度が求められる部分には、裏面に「補強材(補強板)」を貼り付けます。
OKI電線「長尺FPC」の概要と技術的な特長
一般的なFPCは、製造設備のサイズ制限から最長でも0.5m(50cm)程度が限界とされてきました。そのため、長距離の配線を行う場合には、FPC同士をコネクタで接続するか、丸線ケーブルを併用する必要がありました。
これに対し、OKI電線が提供する「長尺FPC」は、独自の生産技術とプロセス管理により、最長100mまでの長尺化を実現しています。これにより、一本の連続したFPCのみでシームレスに配線することが可能となりました。
主な仕様と性能上の特長は以下の通りです。
- 構造(層数):片面(1層回路)および両面(2層回路)に対応しています。
- 最大配線長:片面FPCでは最大100m、両面FPCでは最大10mの長尺製造に対応します。
- 薄型・極薄仕様:全体の厚みはわずか0.1mm程度(構成によっては0.1mm〜0.2mm)と、非常に極薄です。
- 軽量性:同一の電気容量を持つ従来の丸線ケーブルと比較した場合、重量を約1/100程度にまで削減することが可能です。
- 高耐久・可動性:ジャバラ形状などの立体的な形状に整形することで、捻回(ねじれ)や伸縮を伴う可動部配線に対応します。単純な往復摺動屈曲特性においては、屈曲半径(R)や設計仕様によりますが、1億回以上の耐屈曲寿命を実現する高屈曲仕様も選択可能です。
従来の丸線ケーブルおよび一般的なFPCとの比較
配線設計において、OKI電線の長尺FPCを導入することは、従来の丸線ケーブルや一般的な短尺FPCを使用する場合と比較して、以下のような技術的違いとメリットをもたらします。
| 評価項目 | 従来の丸線ケーブル | 一般的な短尺FPC | OKI電線「長尺FPC」 |
|---|---|---|---|
| 最大配線長 | 数百m以上(制限なし) | 最長0.5m程度 | 片面:100m / 両面:10m |
| 厚み・設置スペース | 太い(大スペースが必要) | 薄い(0.1mm〜0.2mm) | 極薄(0.1mm程度、省スペース) |
| 重量 | 重い(100%基準) | 軽い(短尺のみ) | 極めて軽い(ケーブル比約1/100) |
| 中継コネクタの有無 | 不要(1本で配線可能) | 長距離では複数接続が必要 | 長距離でも不要(一貫配線) |
| 誤配線リスク | あり(結線作業時に発生しやすい) | なし(回路が固定されている) | なし(長尺でも誤配線ゼロ) |
| 屈曲・可動耐久性 | 構造による(断線の懸念あり) | 高い(ただし短尺限定) | 極めて高い(1億回往復摺動対応可) |
他方式と比較した導入メリット
- 圧倒的な軽量化と省スペース化 丸線ケーブルの約100分の1という軽さと、厚さ0.1mm程度の薄さは、装置全体の軽量化に直結します。特に重量が打ち上げコストや燃費に直結するロケット・人工衛星などの宇宙航空分野や、ヘッド部が高速で移動する精密スライド機構において、慣性モーメントの低減に大きな効果を発揮します。
- 組み立て作業性の向上と「誤配線」の完全防止 多数の丸線ケーブルを一本ずつ端子に結線する作業は、手間がかかるだけでなく、誤配線のリスクを伴います。長尺FPCはあらかじめ回路パターンが基板上に固定されているため、コネクタを差し込むだけで接続が完了します。配線作業の大幅なスピードアップと、誤配線防止による歩留まり向上が図れます。
- 中継コネクタ排除による信頼性の向上 一般的な短尺FPCを繋ぎ合わせて長距離配線を行う場合、途中に接続用の中継コネクタや中継基板が必要になります。これらは振動や衝撃、経年劣化による「接触不良」の潜在的リスク(故障点)となります。長尺FPCであれば中継ポイントを完全に排除できるため、システム全体の物理的・電気的な信頼性が格段に向上します。
設計・導入時における重要な注意点:「吸湿」
長尺FPCを設計・導入するにあたり、生産技術や開発担当者が最も留意すべき物理的特性が「吸湿(きゅうしつ)」です。
FPCの主要材料である「ポリイミド」や、積層に使用される接着剤は、大気中の水分を吸収しやすい性質(吸湿性)を持っています。FPCが水分を吸収した状態で急激に加熱されると、内部に閉じ込められた水分が気化・膨張し、以下のような不具合を引き起こす原因となります。
- ミズリング(ミズリング現象):基板内部の積層界面で剥離が発生する現象。
- デラミネーション(層間剥離):ベースフィルムと銅箔、あるいはカバーレイの間が剥がれる現象。
- フクレ(ボイド):外観上にプツプツとした膨らみが生じる現象。
実務における具体的な対策
特に、リフローはんだ付けや手はんだによる部品実装、あるいは部品搭載部の熱プレス工程など、高温を印加する作業の直前には、FPCに吸着した水分を完全に放出させるための「ベーキング(加熱乾燥処理)」を必ず実施してください。 一般的なベーキング条件としては、100℃〜120℃の乾燥炉で数時間加熱乾燥させることが推奨されます。乾燥後は水分を再吸収しやすいため、部品実装作業はベーキング後、規定の時間内に速やかに行う必要があります。また、保管時にはシリカゲルを同封した防湿袋に密閉し、温湿度管理された環境に置くことが基本となります。
採用分野・対応業界と具体的な使用例
① 宇宙開発・人工衛星分野(ニューススペースへの貢献)
OKI電線の長尺FPCにおける最も代表的な実績の一つが、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発した小型ソーラー電力セイル実証機「IKAROS(イカロス)」への搭載です。 イカロスは、宇宙空間で太陽光の圧力(光圧)を受けて進む薄膜セイル(帆)を備えた実証機です。この一辺約14mの巨大なセイル部分の配線として、OKI電線の全長14mにおよぶ長尺FPCが採用されました。セイル表面に貼り付けられた薄膜太陽電池や、宇宙環境を測定するための各種センサ類の信号・電力ラインとして機能し、極限の宇宙環境(真空、激しい熱サイクル、強烈な宇宙放射線)に耐え抜き、世界初の宇宙セイル実証成功に大きく貢献しました。
近年急成長している民間主導の宇宙ビジネス「ニュースペース」領域においても、人工衛星の小型軽量化、部品点数削減による低コスト化、ロケットの打ち上げコスト削減に直結する配線材として、極めて高い注目を集めています。
② 大型FA(ファクトリーオートメーション)機器・産業用機械
半導体製造装置、大型のフラットパネルディスプレイ(FPD)製造ライン、大型検査装置など、数メートルから十数メートルに及ぶ長大なストロークを持つ可動軸(スライドステージなど)の信号伝送および給電配線に採用されています。ケーブルキャリア内での摺動スペースを最小限に抑えつつ、1億回を超える高い屈曲耐久性によって、装置のダウンタイム(故障停止時間)を抑制します。
③ 大型照明装置・空間演出機器
長距離にわたって多数のLEDを配置・点灯させる大型照明や看板、建築物の間接照明などの配線において、長尺FPCは回路基板と長距離配線の役割を同時に果たします。配線接続箇所(コネクタ)を極限まで減らせるため、薄型化と信頼性向上を両立できます。
OKI電線の強み:1枚から対応可能な群馬工場の「ハイブリッド生産体制」
長尺FPCの調達や試作を行うにあたり、購買担当者や設計開発者が懸念するポイントが「初期開発コスト(イニシャル費用)」と「最小発注ロット(MOQ)」です。特に最先端の研究開発や宇宙ベンチャーのプロトタイプ開発においては、「まずは試作用に1枚だけ欲しい」というニーズが強くあります。
OKI電線では、群馬県伊勢崎市にある「群馬工場」において、独自に開発した異なる2つの生産ラインを構築し、顧客のあらゆる製造フェーズに対応できるハイブリッドな生産体制を整えています。
- 枚葉(まいよう)ライン(小ロット・試作開発向け) シート状にカットされた材料を用いて製造を行うラインです。治具や金型の初期コストを抑えやすく、工程の小回りが利くため、多品種少量生産に極めて適しています。OKI電線では、この枚葉ラインを活用することで、最長100mのカスタム長尺FPCであっても、研究開発・試作用として**「最小1枚(ロット1枚)」からのスポット生産に対応**しています。
- ロールtoロール(Roll-to-Roll)ライン(量産・安定生産向け) ロール状に巻かれた長い帯状の材料を連続的に送り出しながら、エッチングや積層を連続して行う生産ラインです。高い連続生産能力を持ち、部材や人件費のロスを最小限に抑えられるため、一定以上のボリュームがある量産フェーズにおけるコスト最適化に適しています。
この「開発段階は枚葉ラインで1枚から迅速に試作・評価を行い、製品仕様が確定した段階でロールtoロールラインによる量産へシームレスに移行する」という一貫サポート体制こそが、OKI電線の強みです。
まとめ
OKI電線の「長尺FPC」は、一般的なFPCの限界である0.5mをはるかに超える「最長100m(片面)」の長尺化を成し遂げた、独創的な配線基板です。
従来の丸線ケーブルに比べて重量を約1/100に軽量化でき、厚みもわずか0.1mm程度に抑えられるため、機器の極限までの「小型・軽量・薄型化」に直結します。一貫した長い配線経路をコネクタなしの1本で繋ぐことができるため、接触不良のリスクを排除し、同時に配線ミス(誤配線)の防止による工数削減・作業効率向上に貢献します。
JAXAの「イカロス(IKAROS)」に搭載された実績が示す通り、その環境的信頼性は非常に高く評価されています。また、設計時には「吸湿対策(適切なベーキング処理)」という注意点を押さえることで、高い信頼性を安定して発揮させることができます。
群馬工場の独自生産技術により、「試作用のわずか1枚」というスポット開発から量産対応までをカバーする柔軟な体制は、宇宙ビジネス(ニュースペース)に取り組むスタートアップ企業から、大型FA機器を手掛ける産業機械メーカーまで、多くの設計・開発者にとって強力な解決策となるでしょう。
◇メーカーサイト
https://www.okidensen.co.jp/jp/prod/fpc/tyouzyaku_fpc.html













































































